週15分で信頼を育てる——薬局1on1ミーティングが育てる安心と成長

定着

要点

  • 1on1は評価ではなく支援の時間。週15分を継続することで、安心感と成長実感が積み上がります。
  • やることはシンプルに4つ:事実を確認し、気持ちを受け止め、課題の本質を一緒に探り、次の一歩を合意します。
  • 効果は定着率とサービス品質の向上。小さな不安や課題を早めに拾い、薬局全体の信頼関係と連携を強めます。

はじめに

薬局の現場は年々忙しくなっています。処方の高度化や在宅の拡大だけでなく、患者様のニーズが細かくなり、スタッフ一人ひとりに求められる判断とコミュニケーションの質が上がっています。こうした環境の中で、経営者や管理者の方が共通して悩むのは「スタッフとどう向き合い、どう成長を支援するか」ではないでしょうか。

業務に追われる日々の中で、スタッフの小さな不安や成長の芽に気づけないと、早期離職やモチベーション低下につながります。最終的にはサービス品質にも影響します。この負の連鎖を断ち切るために、以前から注目されているのが1on1ミーティングです。週15分という短い投資であっても、やり方を整え、継続すれば、安心感と成長実感が着実に積み上がります。ここでは、薬局で1on1を実装するための考え方と具体の進め方をお伝えします。

薬局における1on1ミーティングとは

1on1ミーティングは、管理者とスタッフが定期的に1対1で話す時間です。業務進捗の報告や評価面談と違い、話す主役はスタッフであり、管理者は聴いて支援する役に回ります。薬局では、薬局長や管理薬剤師が薬剤師・登録販売者・事務スタッフと個別に向き合い、現場の課題からキャリアの希望まで幅広く扱います。

大切な点は、この時間を「評価」ではなく「支援」に位置づけることです。評価や指示は別の会で行い、1on1は安心して話せる場所としての位置づけを守ります。週15分という短さは、忙しい薬局でも継続しやすく、かつ本音を引き出すには十分です。短くてよいので、必ず毎週行うことが効果の源になります。

1on1がもたらす具体的な効果

心理的安全性が高まり、質問と学びが回り始める

薬局では「聞きづらさ」がミスや孤立につながりやすいです。1on1で否定せずに聴き、気づきを一緒に整理する習慣を作ると、「分からないことを早めに聞く」「失敗を共有して学ぶ」という動きが自然に出てきます。結果として、業務の質とスピードが安定します。

小さな課題を早期に見つけ、早く解決できる

月例会議ではなかなか出てこない“個人のつまずき”も、1on1なら拾うことができます。例えば、患者様への対応での迷い、在宅業務の準備で手順がうまくつながらないこと、入力ルールの理解不足などです。こうした小さなボトルネックを早めに言葉にして共有し、薬局として代行・優先順位の見直し・練習機会の設定・同行といった支援をすれば、問題を早期に解消できます。結果として、小さな課題を放置しないことが、早期離職の防止にも直結します。

キャリアの方向性が見え、モチベーションが続く

「在宅業務に挑戦したい」「○○領域の知識を深めたい」など、個々の希望はさまざまです。1on1で希望を聞き、90日スパンの学習や担当の割り当てに反映すると、成長の手応えが生まれます。本人の納得感が高い配役は、チームのパフォーマンスにも良い影響を与えます。

日常の連携が滑らかになる

スタッフ同士の価値観や考え方まで理解が深まると、忙しい時間帯でも動きが揃いやすくなります。例えば、「この人は患者対応が得意だから前に出てもらおう」「この人は処方入力が正確だから任せよう」といった強みが分かれば、自然に声を掛け合い、役割分担がスムーズになります。その結果、誰かが過剰に負担を抱えることが減り、調剤ミスの予防にもつながります。

何をして、何をしないのか——境界線をはっきりさせます

1on1で扱うことは、次の4つに絞ります。

  1. 事実(できたこと・詰まったこと・具体場面)
  2. 気持ち(不安・迷い・嬉しさ)
  3. 支援の合意(薬局側がどんなサポートを行えるか)
  4. 次の一歩(来週までにやることを1つだけ)

1on1で扱わないことは、別の場で扱います。

  • 評価・査定・昇給の話は、評価面談で扱います。
  • 詳細な業務指示やアサインは、朝礼や業務会議で扱います。
  • 長時間の研修・面談は、専用の枠を用意します。
  • 個人性の高い相談は、本人と開示範囲を合意し、必要に応じて適切な窓口につなぎます。

毎回の冒頭で「今日はあなたの話を安心して広げるための時間です。評価や細かな指示は別の場で扱いますね」と伝えるだけで、空気が変わります。

忙しい薬局でも続けられる設計

頻度と時間を決める

  • 毎週のミニ1on1:10〜15分で行います。信頼の維持と小さな詰まりの解消を目的にします。
  • 月1回の深掘り1on1:30〜45分で行います。到達度の確認、担当の調整、学習テーマの合意を目的にします。

どちらもカレンダーに固定枠として入れます。中断や予定変更が起きた場合は、「キャンセル」ではなく必ず振替します。ゼロ週を作らないことが継続の鍵です。

場所とプライバシーを確保する

腰かけて話せる静かな場所を選びます。難しい場合は開店前や閉店後の時間、オンラインの活用も有効です。健康や私事に関する話題は本人の同意を前提に扱います。最初にルールを共有しておくと安心して話せます。

週10〜15分でできる具体的な進め方

A4のメモを1枚用意し、見出しに沿って進めます。難しく考える必要はありません。

  1. Fact(3〜4分)
     今週どんな出来事があったのかを具体的に聞きます。例えば「患者様対応で迷った場面はありましたか?」「調剤や入力でスムーズにできて嬉しかった瞬間はどこでしたか?」といった問いかけです。出来事を具体的に振り返ることで、その後の気持ちや課題を整理しやすくなります。
  2. Feel(2〜3分)
     そのときにどんな気持ちだったのかを確認します。例えば「忙しくて焦ったのか」「初めてのことで戸惑ったのか」「質問できずに不安だったのか」といった感情を言葉にしてもらうことで、本人の状態を正しく理解できます。
  3. Focus(3〜4分)
     本当に困っている原因を一緒に探します。例えば「人の問題なのか(誰に聞けばいいか分からない)」「時間の問題なのか(ピーク時に質問できない)」「技術の問題なのか(レセプトや監査でやり方が分からない)」「導線の問題なのか(準備や声かけの流れが決まっていない)」といった切り口で考えると、課題が整理しやすくなります。
  4. Next(2分)
     来週までにやることを1つだけ決めます。
     例:「準備後にYさんへ30秒声かけをする」「入力は1枚ごとに必ず声に出してダブルチェックをする」

薬局側のサポート欄も必ず作ります。
例:「導線ポスターを作ってバックヤードに貼る(◯/◯まで)」「在宅同行の練習枠を水曜に入れる」

このメモは次回の1on1で振り返ります。「できたこと」の欄を累積で残すと、自己効力感が目に見えて積み上がります。

質を上げるための質問と聴き方

  • 問いは短く、具体的にする
     例:「どの場面で特に困りましたか?」「手応えを感じたところはありましたか?」「明日1つだけ変えるなら何ですか?」
  • 事実→感情→支援→一歩の順番を保
     いきなり指導に入らず、まず理解する姿勢を示します。
  • 承認は行動ベースで伝え
     例:「昨日より入力の確認が早くなっていましたね」のように具体を拾います。
  • スタッフの発言割合を多くする
     目安はスタッフ7:管理者3です。タイマーを使うと守りやすくなります。

よくあるつまずきと対処法

  • 管理者が話しすぎてしまう
     質問はなるべく短く区切って投げかけ、相手の答えを要約して返すようにします。こうすることで「自分の話を理解してもらえた」という安心感が生まれます。また、会話の主役はスタッフであるため、発言の割合はスタッフ6割以上を目安にします。管理者が話しすぎると指導や評価の場になってしまうので、あくまで聞き役に回ることを意識しましょう。
  • ToDoが増えるだけで進まない
     次回までにやることは、欲張らずに必ず1つに絞りましょう。新人にお願いすることも、薬局側が約束することも、それぞれ1つだけにします。その1つを翌週の1on1で必ず振り返ることで、「約束が守られた」「できるようになった」という実感が積み重なります。これが信頼関係を強くする一番のポイントです。
  • 雑談で終わってしまう
     1on1が雑談で終わってしまわないように、最後の1分は必ず「次の行動」を確認します。具体的には「誰が・いつまでに・何をするのか」を口に出して合意し、その内容をメモに残します。たとえば「来週の在宅準備は◯◯さんが一人でやってみる」「金曜日までに入力チェックリストを一緒に作る」といった形です。こうして明確にしておくことで、次回の1on1で振り返りができ、継続的な成長につながります。
  • 評価と混ざってしまう
     1on1が評価の場と混同されないようにすることが大切です。冒頭で必ず趣旨を伝えましょう。例えば「今日はあなたの話を安心してできる時間です。評価や査定の話は別の場で行いますから、ここでは率直に感じたことを話してください」と伝えると、相手も安心して本音を話せます。
  • 時間が確保できない
     どうしても時間が取れないときのために、7分でできる短縮版を用意しておきましょう。最初の3分で「事実(Fact)」と「気持ち(Feel)」を確認し、次の2分で「本質的なつまずき(Focus)」を整理し、最後の2分で「次にやる一歩(Next)」を合意します。ポイントは、短縮版でも必ずメモを残すことです。そして翌週には必ず通常の15分版に戻し、継続性を守るようにします。

組織にもたらす中長期の変化

1on1を続けていると、スタッフが「分からないことは早めに聞こう」という姿勢を取りやすくなり、質問が早く出る文化が根づきます。その結果、小さな課題のうちに対応できるのでミスが減り、現場全体の安心感が高まります。さらに、スタッフ一人ひとりの希望や得意分野と担当業務の配役が合いやすくなり、定着率も上がっていきます。こうした積み重ねは患者様対応にも現れます。丁寧で親身な対応が自然に増え、薬局全体のサービス品質向上につながります。

まとめ

1on1ミーティングは、薬局にとって短い時間で大きな効果を生む習慣です。評価や業務指示とは切り離し、安心して話せる場として毎週15分を確保しましょう。やることはシンプルです。事実を確認し、気持ちを受け止め、つまずきの原因を一緒に探り、来週の一歩を合意するだけです。薬局としての約束も小さく具体的に決め、翌週に必ず振り返ります。

今日から始めるなら、①カレンダーに固定枠を入れること、②A4メモを1枚用意すること、この二つで十分です。小さな約束を重ねることで、スタッフの安心と成長が目に見える形で育っていきます。まずは一人と15分、今週から始めてみませんか。その小さな一歩が、薬局全体の未来を変える第一歩になります。

タイトルとURLをコピーしました